医師国家試験問題解説

東南アジア旅行後の粘血便

109A45
22A
22B
問題のキーワード

東南アジア旅行

下痢、粘血便

結腸に発赤・びらん

どんな病原体を想定するか

症状に粘血便が含まれていることから、大腸疾患を想定します。

問題文だけでアタリを付けていかないと、画像だけでは病原体を想定するのは難しい。そもそもPAS染色だけで診断できる病原体ではありません。

もし細菌であれば、大腸粘膜の細胞よりもかなり小さな病原体です。ところが画像は同じような大きさの細胞が写っています。ヒト細胞と同じような大きさを持つ病原体は原虫か真菌です。

大腸に病原性を発揮する原虫は

赤痢アメーバ または 大腸バランチジウム(ブルーノート未掲載)

に絞られます。大腸バランチジウムは、最大の原虫で毛玉みたいな様相で、大きさも赤痢アメーバの倍以上ですので画像が一致しません。

また細胞を白血球と考えて炎症性腸疾患と勘違いしないようにしましょう。PAS染色は多糖類を赤く染める染色であり、粘液やグリコーゲンと反応します。白血球はこのように染色されず、アメーバの持つグリコーゲンが赤く染まっていると考えます。

選択肢を検討する

×a. エリスロマイシン、×d.ミノサイクリン:抗菌薬であり、原則として原虫には無効

×b. フルコナゾール:抗真菌薬であり、無効

×c.プレドニゾロン:免疫抑制作用により感染症が悪化する危険性がある。禁忌肢の可能性がある。

〇e. メトロニダゾール:嫌気性菌やピロリに作用がある抗菌薬であるが、多くの原虫にも有効

ちなみに赤痢アメーバも大腸バランチジウムもメトロニダゾールが有効です。

正解

e. メトロニダゾール

現場で使えるポイント

日本の赤痢アメーバ感染症の過半数が国内で感染、性的接触が原因です。本症疑ったときは他の性感染症(HIVや梅毒)の検査も検討しましょう。

肝膿瘍などの腸管外アメーバ症を合併することもあります。胸部~腹部の画像検査を。まれに脳にも浸潤します。

治療後もアメーバの嚢子だけが排出され、他のヒトへの感染源になることがあります。メトロニダゾール終了後はパロモマイシンを投与して嚢子も殺しましょう。

5類感染症ですので7日以内に届け出ましょう。

ABOUT ME
清水 少一
産業医科大学医学部 免疫学・寄生虫学 講師/ 医師、博士(医学)、感染症・総合内科・産業衛生のトリプル専門医。 Researchmap https://researchmap.jp/show1