医師国家試験問題解説

東南アジア旅行後の下痢

問題文
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30歳代 男性

東南アジア旅行 2週間

2日前から水様下痢

発熱あり

血圧低下や呼吸困難はない

診断を確定するための検査は?

どんな疾患/病原体を想定するか

発熱+下痢+海外渡航歴で想定するべき疾患は

旅行者下痢症(Traveler’s diarrhea)

水様下痢+潜伏期間2週間以内なら病原体は

細菌:大腸菌(特に毒素原性大腸菌ETEC)、非チフス性サルモネラ、カンピロバクター、腸炎ビブリオ

原虫(ジアルジア、クリプトスポリジウム)での発熱は稀。

なお、赤痢アメーバは水様性よりも粘液~血便

選択肢を検討する

問題は診断確定を求めているので、病原体を特定できる検査を選ぶ

aとcは画像検査なので病原体が特定できない

bは旅行者下痢症の病原体を推定するのに有効。ただし、培養までしなければ種の同定や抗菌薬の感受性はできないので注意。

dは結核菌やクリプトスポリジウムの検出に有効。しかしこれらの下痢は比較的症例数が少なく、症状も一致しない。まず行う検査ではない。

e Clostridioides difficileは抗菌薬使用後の院内感染症の病原体。旅行者下痢症の病原体ではない

答え

b 便のGram染色

現場で使えるポイント

・グラム染色するだけでは種の同定はできないので、便培養も忘れずに検査

・抗菌薬投与をせずともほとんどの症例で自然軽快が見込まれる。抗菌薬投与を考慮するべきは

  • 高齢または乳幼児
  • 菌血症や膿瘍などの腸管外病変
  • 免疫抑制状態
  • 人工関節、人工血管、人工弁

・同じ症状を繰り返したり、性感染症の既往、帯状疱疹の既往がある場合は性感染症やHIVの検査を考慮

ABOUT ME
清水 少一
産業医科大学医学部 免疫学・寄生虫学 講師/ 医師、博士(医学)、感染症・総合内科・産業衛生のトリプル専門医。 Researchmap https://researchmap.jp/show1